忍者ブログ
二次創作小説・主にカカイル
[18] [17] [16] [15] [14] [13] [12] [11] [10] [9] [8]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

カカシ×イルカ(♂/♂)
暗部君と中忍教師の殺伐出会い編。大人向き。
最終回。
※全8回+『楽園の人』前後編でHappy end。


+ + + + + + + + + +
〜8〜

「ただいま」
 暗い玄関で誰に云うともなく呟いて、イルカは長い息をついた。自宅にたどり着いた途端、一日の疲れがどっと押し寄せてくる。
 新入生の選抜を間近に控え、アカデミーの教師は皆、目の回るような忙しさに追われていた。勿論、イルカも例外ではなく、夜遅くまでアカデミーに詰め、帰宅するなり布団に倒れ込む毎日だった。
 何を考える余裕もなく、寝て起きる。それを繰り返すうちにイルカは慣れた。
 誰もいない部屋と時間に。


 突然、ドアに預けた背中が総毛立った。
 寝室から淡く漂う気配。
 イルカの理性が否定するそれを、まるで求めるように躰は動く。足早に居間を通り抜け、奥のドアを開いて明かりを探る。
 ―――なんで。
 ぼんやりと暗がりに浮かぶ、見慣れた面。
 照明のスイッチに触れたまま、イルカは固まった。
 暗部の装束をまとった男は、重さなどないもののように音もなくベッドから立ち上がり、イルカに歩み寄る。
「忘れ物を片付けにきた」
 何を期待したわけでもないのに、ぶっきらぼうな男の言葉を耳にした途端、落胆する自分に気づかされた。
「そう、ですか」
 イルカは形だけの相槌を返しながら、明かりを点ける。ぎこちなく強ばった指の爪先が金属板に当たり、かちりと微かな音を立てた。
 存在するはずのない影から顔を背けて、抱えていた鞄を床に下ろし、ベストをハンガーに掛けた。機械的に日々の習慣をなぞるイルカの背へ、男の声が投げかけられる。
「アンタには世話になったから、ひとつだけ望みをきいてあげる。俺にできる範囲でね」
 いったい何の酔狂か。
 再び戯れに関わろうと云うのか、振り向きもせず打ち捨てていったものに。
「そんなの、いいですよ」
 動揺を悟られないよう言葉少なに返せば、男は焦れたように云いつのった。
「三代目が、巻き込んだヒト全員に償えって云うのよ。全員っても、アンタだけなんだけど。ま、怪我をさせたしね」
 そういうことかと。
 イルカは振り返り、男を見た。暗部面を眼にした途端、突き上げてきた衝動を必死で堪える。
 千々に乱れた思いは荒波に揉まれながら、渦巻く流れにに引き込まれてゆく。渦の底、男の元へと。
 烈しすぎて、くるしい。
 自分が泣きたいのか笑いたいのか、それさえもわからず、無言で立ち尽くすイルカに向かって、男はまるで無造作に痛みを誘う。
「云って。欲しいものは? 要らないものがあれば消してあげるよ。人間でも物でも、記憶でも」
 なんと男に似つかわしく、傲慢な誘惑であることか。
「記憶……」
 ―――忘れられるものなら。
 月の冴えた夜に、この男に出会いさえしなければ、あんなに苦しい日々を過ごさずにいられた。
 最初から、何も知らずに。
 貌も名も明かさず去って行く男を、慕わずにすむように。
「何が欲しいの」

 望みなら、ひとつだけ。

「名前を」
「俺にできること、って云ったでしょ」
 イルカは頭を振った。
 素性など今更だ。どこの誰とも知らずに抱かれ、憎んだのだから。
 名もなき狗を望みはしない。
 獣同士が咬み合った、浅ましい傷痕も要らない。
「ちがッ。違う、俺の」
 息苦しさに途切れる声がもどかしく、イルカは握る拳に力をこめた。
 どうせ、最後なのだから。もう二度と、言葉を交わすことも叶わないだろうから。
 せめて、人のように。
「名前を呼んで、ください」
 偽りでも構わない。
 一度だけ、人である振りをして、人のように呼んで欲しい。
 男は微動だにせず、イルカを見つめていた。
 長い沈黙の末、ゆっくりと男の腕が差し出される。

「イルカ」

 初めて耳にする優しい声音に、躰が震えた。
「イルカ、おいで」
 心臓の鼓動が跳ね上がり、狂ったように走りだす。
 差し伸べられた両腕に縋りたいのに、四肢の力が抜けて動けない。
「……ッ」
 ようやく踏み出した足がもつれ、男の胸に倒れ込んだ。
 骨が軋むほどきつく抱き締めてくる、逞しい両の腕が震えているように感じられるのは、気の所為か。
 硬い胸から伝わる鼓動が、どちらのものとも分からないほど速いのは。
「―――……」
 呼びかける名を持たず、ただ見上げるイルカに囁きかける。
「それだけでいいの」
 戌の面。
 咬み裂かれた痛みは忘れはしない。この身に残るどんな傷痕よりも深い傷を負わせた獣を、覚えていたいと願う。

「ねえ、抱かせて」
 答えられずに頷けば、男の手がイルカの額当てを引き下ろし両眼を覆った。
 ふわりと巻き込まれるようにベッドに落とされ、のしかかる重みと体温に、安堵すら感じる。
 視界を遮る額当てに触れようとした、イルカの右手が引き戻される。
 大きな手に頤を掴まれ、
「イルカ……」
 名を呼ぶ吐息が頬を掠めた。
「……ぁ…」
 繰り返し唇に落とされる、柔らかく甘い感触。
 信じられなくて、恐ろしいような気すらして、躰が強ばる。
 ひんやりとした掌が、イルカの肌をたどり身の内に熱を灯してゆく。そっと何度も、合わせた肌が同じ熱を孕むほどに。
 触れ合った舌先を絡め、深く口づけを交わしながら、イルカは両腕を男の背にまわした。
 腕の中に抱えたのは、胸の奥底に巣くう物狂おしい痛みそのものだ。
 忌みながら逃れられないそれに縋って。
 このまま融けてしまえと思う。


 夢を見ていたような気がした。
 目覚めとともに消え失せた、いつ何処とも知れぬ蜃気楼は、イルカの心に鮮烈な印象だけを残していった。


 両目だけを覆われたまま、すっかり曝け出している皮膚に、早朝の空気と穏やかな気配を感じる。
 イルカが上半身を起こし額当てに手を延ばすと、手首に男の長い指が絡み、強い力で引き剥がされた。
「このまま。狗のコトは忘れて」
 優しい声で、勝手なことを云う。
 最後まで勝手なことしか云わない。
 人の気持ちを蔑ろにして、誰に許すこともなかった胸の内深くにまで居座っておきながら、戻る気もなく出て行く男など、野垂れ死ねばいいと思う。
「無理に決まってる」
 イルカがやっとの思いで絞り出した声は、低く掠れていた。
「いなくなれば、そのうち忘れるよ」
 自分に向けられた穏やかな声音が悲しくて、やりきれない。
 本当に、いなくなる。
 男は暗部の日常に戻り、生死の際に挑むような斗いを繰り返しながら、いずれどこかで本当に野垂れ死に、睦み合ったその身の残骸すら残さず地に還るのだろう。
 一介の中忍には暗部の行方など知る術もなく、知らずに失う不安に怯えながら、記憶を手繰り続けるしかないのだ。
 そう思えば、秘めていた恨み言が口をつく。
「無理だ。無責任だろ、それは」
 軽やかに男が笑う。
「ごめんね。じゃあ、俺もアンタを忘れないから。死ぬときまで覚えてるから、許して」
 今になってそんなことを云うのは卑怯だと、イルカは男の身勝手を詰りながら、不覚にも滲む涙を隠し俯いた。
「ヒトの時に逢ってたら、泣かせたりしなかったのに」
 どこまでも卑怯な男。
 別れの言葉すら痛みを伴って、惨く胸を抉る。
 かすかに震えるイルカの頬を、そっと男の右手が撫でた。耳朶に触れる指先の、鋭い鉤爪。武装に覆われてしまった掌からは、もう温もりが伝わらない。

 迎えが来たから、と唇に触れゆく吐息が伝えた。
 遠く小鳥のさえずる、いつもと変わらぬ朝。
 窓の外には、ささやかな気配も異変も感じられず、それはイルカの絶望を深める事実でしかなかった。
 男が生きる場所は、あまりにも遠い。
「さよなら、イルカ」
 不意に感情の窺えなくなった声音に、同じ言葉を返して、イルカはゆっくりと額当てを外した。
 開け放された窓から、風が吹き込む。
 ひとりきりの部屋に。

 愛でなく、恋でなく。
 何ひとつ与えず分かつことなく、互いの熱だけを求めた日々は、だから、辛い記憶ばかりを残すとわかっていたのに。
 それでも、欲しかった。
 身も心も。
 ただ、衝動だけが強く深くあって。

 ふと閉じた瞼に、忘れていた夢の情景が浮かび上がり、イルカは唇を噛み締める。
 刃のように冴えわたる月光の下を、獣が疾走する。
 猛々しい牙を剥き、風を切るが如くに月下の荒れ野を駆け抜ける、白銀の、狗。
 その鮮やかな幻に心奪われ、この先も囚われ続けるのだろうという予感がした。
 昇る陽は変わることなく、だが、この身が朽ちるまで、痛みを刻まれた昏い魂に陽光の射すことはないと思える。
 ならば、奪われたまま獣に添おう。
 ただ、思いだけを寄り添わせ、永劫の夜を徃く。

 ―――さよなら。

 イルカは抱えた膝に額を預け、こみあげる嗚咽を噛んだ。
 訪れる筈のない朝の光が眩しく。



[了]



2002/09/17〜2004/11/03
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
胸が・・・
8まで読ませていただきました。

最後の、何か欲しいものは?ってところから
もう胸が苦しくて、何か泣きそうになりました。
名前を呼ぶところなんか、もう最高潮に・・・。

切ないけど、哀しくないと感じるのは
後日談があるとわかってるからでしょうか・・・。
でも、すごく良かったです。
こんなことしか書けなくて申し訳ないです。

サイトの方にも行かせていただいたのですが、
楽園の人前編がどこにあるのかわからくって・・・。後編はあったんですけど。
またこちらにもアップしていただけたら
すごく嬉しいです。
ぽんた URL 2006/03/20(Mon) 編集
それでは早速
楽園の人をUPしますね。
サイトの方は我ながら見づらいつくりになっていると思うのですが、なかなか手直しできずにおります。すみません。

嬉しいお言葉をありがとうございました。
好きなものを書いて、同じものが好きな方々に読んでもらえて、その感想をいただけるほど嬉しいことはありません。
もう子供のように足をばたばたさせたいぐらいです。
ここもサイトものんびりまったり更新してゆきますので、今後ともよろしく。
gedoh URL 2006/03/20(Mon) 編集
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
Counter
Search this site
mero
Barcode
Ninja point
Ninja
Powered by ニンジャブログ  Designed by 穂高
Copyright © 玄天堂書庫 All Rights Reserved
忍者ブログ / [PR]