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二次創作小説・主にカカイル
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カカシ×イルカ(♂/♂)
全3回。
桜の下のお約束、少女マンガ風味告白編。
ヘタレ魂炸裂カカイル。


+ + + + + + + + + +
 里を取り囲む山々の緑が褪せ、空が高くなった。
 うららかな小春日和と肌寒い日が交互にやってきて、人々が衣替えに煩わされている頃、北の谷に桜が咲いた。
 くすんだ木々の狭間で、山桜の一群れがこんもりと蕾をつけ、谷の斜面に淡色の帯を流しているさまは衆目を集め、ひととき里人の口の端にのぼった。
 『秋の桜は凶事の前触れ』
 或いは、訳知りらしく、
 『三代目は桜がお好きだったから』
 そんなふうに云う者もあった。
 どちらにしろ、憂いを呼び覚ます時季外れの花は、人の目を楽しませることなく忘れ去られようとしていた。






 北の谷に広がる鎮守の森には、小さな祠がある。
 木ノ葉隠れの里に今はひとつきりの、稲荷を祀った祠は、里で最も古く由来のあるものであったが、十二年前に祀り直されて以来、通う者も絶えて久しい。
 木ノ葉稲荷へと続く急な石段を、カカシは昇って行く。
 湿った土と草いきれが溶けた濃密な山気が、肌に染み込んでゆくようだ。
 カカシは森の匂いが好きだった。
 露に濡れた樹木や野草、小さく可憐な花々の香気が混然と溶け合い、深く穏やかに森を包む。幾年月も朽ち葉を重ねた土の匂いさえも、季節ごとに変わる。
 複雑で豊かな表情をたたえつつ、根本は泰然として強靭である森は、揺るがぬ生命力をもって再生を繰り返す。
 その在りようはカカシの疲れを癒し、同時に、よく似た匂いを持つ男を思い出させた。
 ―――イルカ先生。
 その名を呼べば、カカシの気持ちは和む。
 イルカの側に居るだけで、日々の疲れや痛みが溶けてゆくような心地がする。歪みのない健やかな空気をまとった人。
 人生の大半を暗部として生きてきた自分とは、まったく異質な、けれども、決して不快ではないイルカの雰囲気に触れるうち、それはカカシを満たす条件のひとつになった。
 今ではイルカと、彼を囲むちいさな世界が、かけがえのないもののように感じられる。
 ありふれた中忍のちっぽけな世界は、驚くほど多くの人々と健気な思いを抱え込んでいて、それらはイルカに喜びを与える大切なものらしいから、何ひとつ欠けることがないように守らなくてはいけない。
 イルカの悲しみは率直に過ぎ、近しい者達の胸をも痛ませるので。
 近所のおばさんから、アカデミーの生徒達、同僚、火影に至るまで、イルカの思いは広く深い。
 ―――だから困るんですよ、火影様。
 久し振りにカカシが訪れる約束をしていたというのに、イルカの部屋のドアは閉ざされ、中に人の気配はなかった。
 居場所の見当はつく。
 身を呈して木ノ葉崩しを防いだ老人の、笑みをたたえた面影に追い立てられるような思いで、カカシは石段を強く踏みしめた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 その年は桜の咲くのが遅かった。
 カカシが、どう割り引いてもSランク以下にはならない、厄介な単独任務を片付け里に戻った日、ようやく土手の桜が花開いていた。
 うららかな春風に前髪を遊ばせ、大ぶりな枝にもたれて昼寝をきめこんでいたカカシは、奇妙な足音と気配に眠りを破られ、いささか不機嫌に土手を見下ろした。
 大きな泥の塊が、川辺にわだかまっている。
 何事かと花陰から顔を突き出した途端、泥塊は川の深みに飛び込んだ。
 水面が静まり、ややしばらくして、派手な水飛沫とともに人間が顔を出した。歳の頃はカカシと変わらないように見える、十六、七の少年だった。
 少年が流れに半身を浸したまま、もがきながら濡れた服を脱ぎ捨て、木ノ葉の印が刻まれた額当てを外すのを目にして、カカシは呆れた。
 隙だらけの不器用そうな躰をした少年が、一人前の忍とは到底、信じられなかったからだ。カカシの眼は、嫩く張りのある膚を引き攣らせている、致命傷寸前であったろう名残を、いくつも見て取っていた。
 ―――あーあ、なんか泳いじゃってるし。
 水をくぐる黒髪の輝きを、見るともなく眺めていたカカシの脳裏に、ふと閃くものがあった。
 あの少年とは、いつか、火影の部屋の前ですれ違ったことがある。尤も、向こうはカカシの素顔を知る由もないが、カカシは少年の鼻面を断つ一文字の傷を覚えていた。
 ―――九ツに親を喰われて、里の養い子……か。
 ならば、少年が何度も死にかけてまで忍を目指したのにも納得がゆく。まるで上忍になれる器には見えないとしても。
 火影の語った、断片的な少年の素性を思いだすうちに、悪戯心が湧いた。
 カカシは枝から身を乗り出し、全裸のまま川岸で服を濯いでいる少年の、陽に灼けた背中へ声をかけた。
「泳ぐにはまだ冷たいでしょ?」
 カカシの声が引き起こした反応は、なかなかの見物だった。 少年は桜の樹を振り返り、花の中にカカシの面を認めるや否や、反対側の川岸にまで跳び退ったのだ。
 ―――なにも、そんなに驚かなくても。
 そもそも、カカシは身を潜めてなどいなかったというのに、少年は気配のかけらも察せずにいたらしい。
 黒い瞳が大きく見開かれ、食い入るように暗部の面を凝視していた。
「逃げなくてもいいよ、何もしないから」
 云いながら片手で招くと、少年は緊張した面持ちながら、素早く川を越えて来た。思っていたよりしなやかで、敏捷な身のこなしだった。
 カカシは樹を降りて根元に腰を下ろし、おずおずと近寄る少年へ、傍らの地面を叩いて見せた。
「名前は?」


〈続〉



2002/06/28〜2002/07/18
2003/11/13改稿・改題
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