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世界が美しく輝いていると見えた。
暁光はそぞろな甘い期待に満ちて、月下の褥に優しい夢を育む、まるで綺麗なお花畑に遊び暮らすような、日々の幸福に酔う。
はたけカカシは恋をしていた。
人生で三度目くらいの、かなり本気の恋だ。
肉体の欲求を伴った恋、という意味では初めての事態かもしれない。カカシの女性経験のみを云えば、それなりに充実したものであったけれども、まともな恋愛感情は思春期で停止して以来、二十代半ばを越える現在まで機能していなかったのだから。
枯れ朽ちていると思われた花畑に、ようやく訪れた春。
目が眩んだ。
遅い春を招いたひとは優しく、朗らかで、つれない男。
アカデミーに所属する中忍。
イルカ先生、と呼ばれている。
出会いのきっかけは火影の采配によるものであったが、その後の展開をカカシはまったく覚えていない。イルカの笑顔が好もしいと気づいた時には、お花畑の中にいた。
同性であることが抑制にならなかったほど、カカシには魅力的に感じられる彼を、どうしても欲しくて仕方がなくて、なりふり構わず夢中で口説いた。
無論、異性とすら真っ当に付き合ったことのないカカシに、男の気を引く手管などある訳もなく、ただ、ひたすらイルカに接触を図り、胸のうちに沸き上がる思いを語っただけだ。
自分でも涙ぐましくなるほど、愚直に。
「あなたが好きです」
「そ…そういう冗談は、ちょっと……」
「俺は本気ですよ」
「そんな……ありがとうございます。で?」
カカシの告白に頬を赤らめながらも、イルカは容易には陥落しなかった。
愛を囁けば、苦笑とともに流される。
手を握れば素っ気なく振り払われる。
肩を抱いたなら鳩尾に肘を入れられるし、背後から抱きついた日には裏拳が飛ぶ。
後に聞いたところによると、素直で人好きするイルカは受付勤務でも評判がよく、中忍上忍を問わずに可愛がられ、同性に言い寄られることも少なくなかったという。
勿論、極めて常識を重んずる上に、現役教師であるイルカが道に外れた誘いに応じる筈もなく、その筋では〈鉄壁の要塞〉だとか〈下手の小話〉などという二つ名で通っていたらしい。
噂を裏付けるように、カカシを映すイルカの双眸はいつも、まとわりつく胡乱な上忍に対する警戒心と、元生徒の上司に対する好意の間で戸惑い、揺らいでいるように見えた。
「終わったら、呑みに行きませんか?」
カカシは受付の机に肘をつき、すっかり挨拶代わりとなった誘いをかける。
「せっかくですが先約がありますので、また次の機会に」
礼儀正しい返事は変わりばえせず、先約が残業であったり答案作成であったりするだけで。
「じゃあ次は俺の予約を入れて? いつでもいいから」
「カカシ先生……」
「そんなに困った顔しないで下さいよ。冗談です……ねぇ、先生、下手の小話って何?」
「それを俺に訊きますか。小話になっていない小話って意味でしょう」
「あー…なるほど」
確かに、落ちないのは小話とはいえない。
うまいことを云う、などとカカシが妙な感心をしていると、イルカは小さな溜め息をつき、疲れたような苦笑を見せた。
「別に……そういうつもりでも、ないんですけどね…」
「そんなこと。あなたが真面目に断ってることぐらい、分かってますよ」
云って笑えば、何故だかイルカは驚いたような貌をして、そのまま俯いてしまった。
「明日は……明日の晩なら、暇です」
ぽつりとイルカが呟いた、その時から、カカシのお花畑は満開状態が続いている。
〈続〉
2002/10/08〜2002/10/13
2002/12/08:改稿
暁光はそぞろな甘い期待に満ちて、月下の褥に優しい夢を育む、まるで綺麗なお花畑に遊び暮らすような、日々の幸福に酔う。
はたけカカシは恋をしていた。
人生で三度目くらいの、かなり本気の恋だ。
肉体の欲求を伴った恋、という意味では初めての事態かもしれない。カカシの女性経験のみを云えば、それなりに充実したものであったけれども、まともな恋愛感情は思春期で停止して以来、二十代半ばを越える現在まで機能していなかったのだから。
枯れ朽ちていると思われた花畑に、ようやく訪れた春。
目が眩んだ。
遅い春を招いたひとは優しく、朗らかで、つれない男。
アカデミーに所属する中忍。
イルカ先生、と呼ばれている。
出会いのきっかけは火影の采配によるものであったが、その後の展開をカカシはまったく覚えていない。イルカの笑顔が好もしいと気づいた時には、お花畑の中にいた。
同性であることが抑制にならなかったほど、カカシには魅力的に感じられる彼を、どうしても欲しくて仕方がなくて、なりふり構わず夢中で口説いた。
無論、異性とすら真っ当に付き合ったことのないカカシに、男の気を引く手管などある訳もなく、ただ、ひたすらイルカに接触を図り、胸のうちに沸き上がる思いを語っただけだ。
自分でも涙ぐましくなるほど、愚直に。
「あなたが好きです」
「そ…そういう冗談は、ちょっと……」
「俺は本気ですよ」
「そんな……ありがとうございます。で?」
カカシの告白に頬を赤らめながらも、イルカは容易には陥落しなかった。
愛を囁けば、苦笑とともに流される。
手を握れば素っ気なく振り払われる。
肩を抱いたなら鳩尾に肘を入れられるし、背後から抱きついた日には裏拳が飛ぶ。
後に聞いたところによると、素直で人好きするイルカは受付勤務でも評判がよく、中忍上忍を問わずに可愛がられ、同性に言い寄られることも少なくなかったという。
勿論、極めて常識を重んずる上に、現役教師であるイルカが道に外れた誘いに応じる筈もなく、その筋では〈鉄壁の要塞〉だとか〈下手の小話〉などという二つ名で通っていたらしい。
噂を裏付けるように、カカシを映すイルカの双眸はいつも、まとわりつく胡乱な上忍に対する警戒心と、元生徒の上司に対する好意の間で戸惑い、揺らいでいるように見えた。
「終わったら、呑みに行きませんか?」
カカシは受付の机に肘をつき、すっかり挨拶代わりとなった誘いをかける。
「せっかくですが先約がありますので、また次の機会に」
礼儀正しい返事は変わりばえせず、先約が残業であったり答案作成であったりするだけで。
「じゃあ次は俺の予約を入れて? いつでもいいから」
「カカシ先生……」
「そんなに困った顔しないで下さいよ。冗談です……ねぇ、先生、下手の小話って何?」
「それを俺に訊きますか。小話になっていない小話って意味でしょう」
「あー…なるほど」
確かに、落ちないのは小話とはいえない。
うまいことを云う、などとカカシが妙な感心をしていると、イルカは小さな溜め息をつき、疲れたような苦笑を見せた。
「別に……そういうつもりでも、ないんですけどね…」
「そんなこと。あなたが真面目に断ってることぐらい、分かってますよ」
云って笑えば、何故だかイルカは驚いたような貌をして、そのまま俯いてしまった。
「明日は……明日の晩なら、暇です」
ぽつりとイルカが呟いた、その時から、カカシのお花畑は満開状態が続いている。
〈続〉
2002/10/08〜2002/10/13
2002/12/08:改稿
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