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カカシのお花畑に、木枯らしが吹いていた。
自宅の居間の無駄な広さを感じながら、カカシはソファに腰掛け、だらしのない姿勢で四肢を放り出していた。
横咥えにした煙草から立ち上る紫煙が、複雑な渦を描いては消えてゆくのを、ぼんやりと視線で追う。
―――もーダメかも。
イルカの貌を最後に見たのは、五日前になる。
接触禁止令に拗ねたのではない。
カカシはどんなに納得できないと思えても、イルカ先生の御法度を常に尊重している。守るかどうかは別として。
イルカにしても、本気でカカシの行動を制限できると考えるほど、甘い質ではなかった。作為があろうとなかろうと、教師らしいやり方で、信頼されているという自信を与える人なのだと、カカシは認識している。
互いに、イルカの決めごとが約束ではなく、相手の許容を計る駆け引きであると承知の上で、イルカは誓わせ、カカシは従う。
だから、会わなかった。
イルカが側にいたなら、触れずにいられる自信がない。一度破られたルールは、ささやかな自制心に対する効力を失うだろう。
離れてさえいればと、カカシは自宅よりも馴染んだ部屋へ通うのを止め、イルカの行動範囲に近寄らないよう努めていたのだが、それが逆効果を生んだことは否めない。
イルカに会えないというだけで、胸を塞ぐ思いに窒息しそうだ。
息苦しくて、肌身にこもる熱が増す。
皮膚の下が波立つような感覚を追って、広がる熱が全身を侵してゆく。
―――イルカ先生がもう少し、強けりゃね。
この場にイルカがいたなら、たとえ両腕を拘束されていても強姦できる、などと物騒な確信を持ちながら、カカシはずるずるとソファから滑り落ちた
冷たい床に両脚を投げ出し、それでも去らない熱が疎ましい。
瞼を閉じれば、焼き付けられたかのように同じ面影が浮かぶ。
生え際の整った滑らかな額の下、澄んだ双眸には青い影が落ちる。面を断つ一文字の傷痕、柔らかな唇。
―――…貌が、見たい。
立ち上がりざまに、煙草の火を指先で捻り潰して灰皿へ放る。
歩きながらパジャマを脱ぎ捨て、いつもの服に袖を通して、ベストとホルダーは置いて行くと決めた。
シャレになんないし、と独りごちた口元が引き攣る。
本当に。
今は、誰よりも自分が信用できなかった。
できるだけゆっくり歩いて行こうと思う。
白い呼気を吹き流す夜風が、身に燻る熱を冷ますようにと。
背中を丸め、ポケットに両手を突っ込み、足元へ視線を落として歩く様は常と変わらぬ筈なのに、駆けるが如き速度をもって通行人を追い越して行く。
すれ違う人々が一様に目を剥き、それでも立ち止まりもせずに行き過ぎるのは、隠れ里の住人たる所以であるが、人目を引く銀髪の忍に関する風評が立つのは確実で、カカシは軽く舌打ちをした。
たかが一人の男の為に、どうしようもなく気が急いて、歩調すら狂う。
イルカを思うほどに、自分の中で自由にならないものが増えてゆく。肉体も感情も言葉さえも、何ひとつ思うようにはならない。
恋に狂うと云うけれど。
―――あなたに狂わされるのなら、構わない。
たかが、この世にたった一人の、愛しいひと。
〈続〉
2002/10/08〜2002/10/13
2002/12/08:改稿
自宅の居間の無駄な広さを感じながら、カカシはソファに腰掛け、だらしのない姿勢で四肢を放り出していた。
横咥えにした煙草から立ち上る紫煙が、複雑な渦を描いては消えてゆくのを、ぼんやりと視線で追う。
―――もーダメかも。
イルカの貌を最後に見たのは、五日前になる。
接触禁止令に拗ねたのではない。
カカシはどんなに納得できないと思えても、イルカ先生の御法度を常に尊重している。守るかどうかは別として。
イルカにしても、本気でカカシの行動を制限できると考えるほど、甘い質ではなかった。作為があろうとなかろうと、教師らしいやり方で、信頼されているという自信を与える人なのだと、カカシは認識している。
互いに、イルカの決めごとが約束ではなく、相手の許容を計る駆け引きであると承知の上で、イルカは誓わせ、カカシは従う。
だから、会わなかった。
イルカが側にいたなら、触れずにいられる自信がない。一度破られたルールは、ささやかな自制心に対する効力を失うだろう。
離れてさえいればと、カカシは自宅よりも馴染んだ部屋へ通うのを止め、イルカの行動範囲に近寄らないよう努めていたのだが、それが逆効果を生んだことは否めない。
イルカに会えないというだけで、胸を塞ぐ思いに窒息しそうだ。
息苦しくて、肌身にこもる熱が増す。
皮膚の下が波立つような感覚を追って、広がる熱が全身を侵してゆく。
―――イルカ先生がもう少し、強けりゃね。
この場にイルカがいたなら、たとえ両腕を拘束されていても強姦できる、などと物騒な確信を持ちながら、カカシはずるずるとソファから滑り落ちた
冷たい床に両脚を投げ出し、それでも去らない熱が疎ましい。
瞼を閉じれば、焼き付けられたかのように同じ面影が浮かぶ。
生え際の整った滑らかな額の下、澄んだ双眸には青い影が落ちる。面を断つ一文字の傷痕、柔らかな唇。
―――…貌が、見たい。
立ち上がりざまに、煙草の火を指先で捻り潰して灰皿へ放る。
歩きながらパジャマを脱ぎ捨て、いつもの服に袖を通して、ベストとホルダーは置いて行くと決めた。
シャレになんないし、と独りごちた口元が引き攣る。
本当に。
今は、誰よりも自分が信用できなかった。
できるだけゆっくり歩いて行こうと思う。
白い呼気を吹き流す夜風が、身に燻る熱を冷ますようにと。
背中を丸め、ポケットに両手を突っ込み、足元へ視線を落として歩く様は常と変わらぬ筈なのに、駆けるが如き速度をもって通行人を追い越して行く。
すれ違う人々が一様に目を剥き、それでも立ち止まりもせずに行き過ぎるのは、隠れ里の住人たる所以であるが、人目を引く銀髪の忍に関する風評が立つのは確実で、カカシは軽く舌打ちをした。
たかが一人の男の為に、どうしようもなく気が急いて、歩調すら狂う。
イルカを思うほどに、自分の中で自由にならないものが増えてゆく。肉体も感情も言葉さえも、何ひとつ思うようにはならない。
恋に狂うと云うけれど。
―――あなたに狂わされるのなら、構わない。
たかが、この世にたった一人の、愛しいひと。
〈続〉
2002/10/08〜2002/10/13
2002/12/08:改稿
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