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二次創作小説・主にカカイル
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カカシ×イルカ(♂/♂)
木ノ葉崩しの夜、カカシ独白。


+ + + + + + + + + +
天行く雲の流れは速い。
雲間のきれぎれに、月光に照らされた藍色の空が覗いては形を変え、遠く流れてゆく。
月は見えない。
木ノ葉隠れの月は、隠れてしまった。
ひとり、里境の大壁に立ち天を見上げていたカカシは、深く息を吐き、里の方へと視線を巡らせた。
森の木々に護られた美しい里。
かつて、大壁の上から夜景を見下ろせば、木々の狭間にさながら地の星の如く無数の灯火がきらめいて、その暖かな輝きはいつも、斗いに荒んだ気持ちを慰めた。
見知らぬ土地で、背を守る仲間達が斃れてゆく。流れ出る血が地に染むよりも早く、命は簡単に消えてしまう。
繰り返される戦の中では己の力の他に頼るものもなく、信じられるのは共に斗う者だけと、眠りにすら安らぐことのない心は軋みを上げて、壊れぬ為に灯火の記憶を手繰る。
帰還を待つ者もない身には冷たすぎる草の褥で、肉親のように恋人のように、故郷の地を想った。
―――あの場所に帰ろう、木ノ葉隠れの里に。
生きて帰りたいと。自分を優しく迎えてくれる灯火を、森を支える木々のように護りたいと、それだけを願った。
何処よりも愛しく、美しい場所。
その里が、無残な姿を曝していた。
敵の来襲に脅えるように灯火は消え、破壊された建物から上がるいくつもの炎が天を灼き、燻されくすんだ町並みを照らす。
浅ましい野望に踏み躙られた里の、生々しい傷跡が惨く瞳に灼き付いて、一生忘れられまいと思う。
我知らず握り締めた拳の中で、爪が手甲を裂き肉に食い込んでいた。
ひたりと背後に知った気配がする。
「大変だねぇ、暗部までが走り回って、さ」
暗闇に仄白く浮かぶ獣を模った面を振り返りもせず、カカシは肩を竦めて見せた。
「里の忍になると、何の為に手を汚したかも忘れるか」
「いや。掲げる大義に変わりはないな……悪かった、ちょっと気が立ってたもんで」
苦笑を浮かべて振り向くと、かつての同僚は煤と埃に塗れた姿で踞り、利き手に包帯を巻きつけていた。
「……交替だ」
「人手が足りないでしょ。俺より他に回しなさいよ」
云いながら、カカシは不器用に絡んだ包帯を引き取って、爛れた掌に巻き付けてゆく。
「交替だ。葬儀の刻限まで休ませろと、上が云ってる」
「放っておけば。ちゃんと葬儀には出るよ」
「カカシ……誰もお前の心配はしていない」
含みのある口調に手を止め、視線で問い返せば、暗部面から呆れたような溜め息が漏れた。
「明日の朝まで走り回っていそうな勢いだったぞ」
「誰が」
内心、己の迂闊さに舌打ちをしつつ、素知らぬ振りで包帯を巻き続けている。けれども、カカシの脳裏には彼の人のやつれた面影が浮かび上がり、それを振り払うことはできそうになかった。
「木ノ葉丸様の後見の、何と云ったか……」
白々しく首を傾げた面を、殴ってやりたいと思う。
「だから、何で俺に?」
「俺に訊かれてもな」
「……あのね、イルカ先生の話なら本人に云ってくれないと」
「ああ、そんな名前だったか。とにかくお前は帰れ」
返事の代わりに渋々と頷きながら、巻き上げた包帯の仕上げに掌を軽く叩いたのは、カカシのささやかな嫌がらせであったが、残念なことに、顰められた筈の表情は面に隠れて見えなかった。
「ひとつだけ訊くけど」
立ち上がりざまに、ふと思いついて。
「何だ」
「まさか、あのひとの部屋まで覗いた訳じゃないよね」
「カカシ…………」
相手が絶句するのも当然の問いだった。しかし、訊ねずににはいられなかった己の愚かさも承知の上で、カカシの眼差しは衒いなく暗部の面を映す。
「笑ってもいーよ。でも天秤が釣り合っちゃうとこんなもんだよ?……この非常時にさ」
灯火の向こうには人々がいるのだと、そんな当たり前のことすら気づかずにいたカカシに、帰るべき場所の意味を教えた人。
「……同じものなら、釣り合うだろう」
返された呟きは思いがけず、面の下の素顔を透けさせて、カカシは懐かしさに目を細めた。
「あぁ、そうか……そうだな」
己を育んだ地を信じ護ろうとした仲間達は、変わらずに在る。
ならば、もう一度。葬った過去へ、哀しみを捨て痛みを思い出し、澱む淵へ身を沈めても構わないと思える。
追い払うように片手を振る仲間に笑みを返し、カカシは闇を炙る炎へと身を翻した。
もう一度、すべてを捧げよう。
愛しいこの地と、あのひとの為に。

《終》


2002/09/21(Web再展示:05/02/02)
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