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二次創作小説・主にカカイル
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「たとえばそれは道端にひとつ青いビー玉、陽に透かし見るあなたの瞳に小さな海を描いて、宝物に変わる。」

むやみに長い題のシリアス、合同誌再録。
相変わらずカカイルの出会いから律儀に始まっています。
カカシ×イルカ(♂/♂)全6話。


+ + + + + + + + + +
 それが良いことなのか悪いことなのか、わからない。
 誰であろうと、自分の尺度からはみ出すもの、像を把握できないものを計れはしないだろう。
 そういう意味では、はたけカカシにとって、〈イルカ先生〉は規格外に位置する。


 枯れ色の混じり始めたの葉陰に午後の日差しを逃れ、大ぶりな枝に寝そべっていたカカシの耳に、通りのいい声が漏れ聞こえた。
 風に流れる微かなそれに、神経を逆撫でされるような感覚を覚え、ぼんやりとした意識を引き戻される。
 カカシは顔に乗せていた本をのけ、アカデミーの校舎へ醒めた眼を向けた。壁面をさ迷う視線が、ひとつの窓で止まる。
 教壇から乗り出すようにして、生徒に語っている横顔。
 それは、ひたむきな若い教師の姿に違いなく、イルカを知る者ならまったく彼らしいと言うだろうに、カカシはそうかと頷いて見過ごすことが出来ずにいる。
「なんか、しっくりこないんだよねー」
 ひとりごちて。
 どこに引っ掛かっているのか。
 こだわりの根元が見えない。
 長年にわたり暗部を務めてきた上忍の判断力を、カカシはそれなりに自負している。
 知識と経験と常識、そういうもので培われた定規は普通に生きて行く上でも、忍として生きるにも必要なものだ。
 物事にはたいがいセオリーがあって、それに属さないものを見分けるに都合よくできている。
 敵を知るには己の定規、己を知るには他人の定規で計るものだから、せめて目算ぐらいは利くように鍛えておけと、下ネタ混じりに語ったのは、素顔を知る暇もなく長い任務に出た先輩だった。
 帰って来たとも聞かないが、どこかの暗闇で目盛りを読み違えたのだろうか。
 そういえば高く結い上げた髪形が似ていたと、カカシは反射する窓ガラスの向こうに目をこらす。
 見知らぬ面影を重ねようもないのに。
 言い訳を、探していたのかもしれない。





「お疲れさまです」
 人の少ない夜の受付に座し、報告書を受け取るイルカの労いに、カカシも同様の当たり障りのない笑顔を返す。
 珍しくもないやりとり。イルカにしてみても、日々この場で繰り返されるパターンのひとつに過ぎないだろう。
 そうであるべきなのだと、カカシは思う。そう感じられないのが問題なのだ。
 アカデミーの内勤に就いている中忍。
 下忍候補生を教育する傍ら、任務受付から通達まで務め、アカデミー内のどこででも姿を見かけるといわれる教師。
 イルカの教え子であった部下達を通じて知り合ったが、彼が三代目火影の側近く仕えていたからには、おそらくもっと以前、カカシが暗部に所属していた頃にも言葉を交わしたことがあったかも知れない。
 しかし、カカシの記憶に残っていたのは、外見の特徴だけだ。
 その程度の存在であった。
 カカシがイルカに意識を向けるようになったのは、里の災厄を内に孕んだ子供の監視を命ぜられて以来のことだ。
 作為的に自分の配下に組み込まれた少年に、最も深く影響を与えた人物がイルカだった。
 ひとつ間違えば大事を招きかねない巨大な力と、密接な繋がりを持つ〈イルカ先生〉。
 だが、確実に成長しつつある少年の、大方の不安を裏切る健やかさを身近にし、里に迫りつつある不穏な予兆に触れてみれば、逆に危険要素としてのイルカに対する警戒は薄れた。
 危険は常に在るが、イルカが重大な影響を及ぼす可能性は低い。
 居合わせたなら挨拶をするくらいの関係を保てば充分。
 変わることのない距離を隔て、イルカを視界の端に留めておけばと。
 そう判断したカカシが、イルカと接するのは苦にもならず、ただ、気まぐれな上忍の擬態を続けていれば済むことだった。
 そうして時折、意味のない言葉と笑みを交わした。
 それだけでも相手の情報は蓄積されてゆくものだ。忍を生業にしていれば尚のこと。
 職務に忠実というより熱心なタイプだと一目で分かるほど、イルカは忍特有の臭みが薄く、それ故に忍らしくも見える。
 忍としての経歴はなかなかのもので、外勤につけば階級を上げるのにさほど時間はかかるまい。
 教師としての技量は、イルカの送り出した生徒達が受付に顔を出す頻度で分かる。基礎をしっかりと叩き込まれた下忍はのみこみが速く、それだけで実戦での生存率は上がる。カカシの部下達のように。
 イルカが良い教師なのは、他に確かめるまでもない。
 率直過ぎるきらいはあるが、大らかで人好きする性格。女子供に信頼されてしまうような男には、浮ついた色事など縁遠いことだ。
 かすかな違和感を覚えた。
 無意識にも部下の、周囲の人々の言葉を拾ってゆくうちに形を成したイルカの輪郭を、カカシの直感が否定する。
 ―――何を。どこが。
 それは己への問いすら定まらない、裏付けのない勘働きに過ぎなかったが、ひどく気になった。
 カカシに向けられたイルカの視線、どこか曖昧な態度には、額面どおりに受け取れないところがある。
 イルカを目にするたび覚える違和感には、得体の知れないものが隠されているように思え、それと悟れぬもどかしさに苛立った。
 放っておけばいいものを。
 頭の片隅に押しやった分別の囁きに耳を塞いで、カカシの眼は、報告書を処理する滑らかな指の動きを追う。
 真剣な顔つきで書類に向かう、イルカの頭上で揺れている一束の黒髪は、犬の尾を連想させる。
 番犬。
 イルカもまた、カカシと同じ役目を担っていたのではなかったか。
 思慮深く老練な三代目が、何の意図もなく少年をイルカの元に置いたとは考えられない。
 結果として導かれた現状がどうあれ、かつて巡らされた思惑は、カカシの疑問を深めるだけだ。
 ―――似たようなことやってるのにね。
 自分と、イルカと。
 掛け離れた立場の間には理解も情もなく、ただ、薄っぺらな関係のみがある。それだけの二人を隔てる空気がどうして歪むのか、歪んでいるのは己の認識なのか。
 答えは見つからないが、どこにあるかは見当がつく。
「はたけ上忍、こちらに」
 声とともに尻尾が大きく揺れて、上げられた顔に視線を移せば、イルカは生真面目な顔つきで、カカシがわざと書き漏らしておいた項目を指し示す。
「あー、ここね?……すみません、お手数かけちゃって」
「いえ、そんな」
 カカシが振りまく必要以上の愛想に、イルカは戸惑ったような笑みで応える。階級が染みついた内勤の、ありふれた中忍らしく。
「手数ついでに、このあと付き合ってもらえませんか」
 筆を走らせながら何げない口調で言うと、イルカの困惑の色は深まった。ほんの僅かにひそめられた眉間と、強ばった頬。
 さして親しくもない上忍からの、唐突な誘いを警戒されるのは分かっているから、カカシは困ったような貌をつくる。
 一杯呑りながら子供達のことを、と、相談ごとをほのめかせばイルカは察しよく頷いて、ぎこちない表情からは堅さが抜けた。
 カカシの露な片目が安堵に和らぐ。それだけは偽りなく。

 そんなふうに一歩、近づくのは簡単だった。



〈続〉
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