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二次創作小説・主にカカイル
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「たとえばそれは道端にひとつ青いビー玉、陽に透かし見るあなたの瞳に小さな海を描いて、宝物に変わる。」

むやみに長い題のシリアス、合同誌再録。
相変わらずカカイルの出会いから律儀に始まっています。
カカシ×イルカ(♂/♂)全6話。


+ + + + + + + + + +
 卓を蹴倒され殴られなかったのは僥倖だった。

 窓の外で小鳥がそう合唱している。ような気がする。
 寝起き一番に昨夜の出来事を思い出し、カカシは反射的に掛け布団を頭の上まで引き上げた。
 無かったことにしたいと、切実に思う。
 ―――間違えた。
 イルカに対する解釈と企みと手段、要するに全部を。かなり大胆に。
『お断りします』
 低い声に怒気を滲ませ席を立ったイルカを、追いかける余裕もないほど、衝撃を受けていたのは確かだ。
 一目惚れ。
 相手は同性。
 自覚したその場で振られる。
 どれ一つとしてカカシの過去の体験の中にはなく、想像もつかないほど縁遠かった。昨夜、イルカを誘い出さねば一生、経験しないままであったかもしれない。
 そんな有り様では仕方がない、とはいえ。
 ―――アレは不味かったか。
 それ以前も大差はなかったが、二つ名を冠せられるようになって以来、カカシは里での閨に不自由したことがない。
 上忍だとか写輪眼だとか、そんなものに纏わりついてくる女達が絶えない状態では、ことに至るのに手間暇をかける必要もなく、相手を誘おうと思えば、昨夜イルカの忿りを買った一言で充分だった。
 勿論、それが普通だと考えていたのではないが、習慣というのは追い詰められたときに表れてしまうから、油断がならない。
 イルカの反応を見るまでもなく、明らかに不手際だった。
「野郎に言われたかないよなー」
 布団の中でくぐもる独り言に、しみじみと己の愚かさを噛み締める。 カカシの知る限りでは、イルカの周囲に色めいた噂はない。問われて怒ったからには、男が好きという訳でもないだろう。
 ―――ま、オレが好みじゃなかった可能性もある、と。
 考えて、ひどく嫌な気持ちになった。
 イルカが別の誰かと。
 男でも女でも、自分ではない誰かと睦み合っているという想像には、不快を通り越して腹立ちさえ感じる。
 男の下で喘いでいるイルカ。男を組み敷いているイルカ。女を悦ばせているイルカというのは、容易に絵面が思い浮かぶだけに、不愉快さが増す。
 イルカとて男、まがりなりにも中忍であるからには、長期任務に出た折りの性欲処理の覚えくらいはあるはずで、年齢からいっても色事の経験がないなど、在り得ないだろうに。
 勝手な憶測に煮詰まりながら、それほど動揺してしまう自分に呆れ、カカシは大きな溜め息をついた。
 一目惚する気持ちというのは、もっと無邪気なものだと思っていた。
 初っ端から下世話なことを考えてしまう自分の、イルカへの思いは肉欲に基づいたものなのかと思うと腰が引ける。
 好きな相手と寝たい。それは当然だろう。
 ―――でも、男と。イルカ先生と。
「……勃つのか、オレ」
 なかなか興味深い疑問ではあったが。
 取り敢えず、そんな追究をしている場合でもないだろう。
 布団に慰めを求めても始まらないと、カカシは心地良い温もりから這い出し、寝乱れた頭を更に掻き乱す。
 ―――どうしようか。
 そんなことは考えるまでもない。





 生意気盛りの部下達に気味悪がられながら、カカシは自ら先に立って任務を早々に片付け、報告書片手に受付を訪れた。
 目的の姿がないと知るや踵を返し、忍犬まで放って捜し回った末、アカデミー裏の森でイルカを見つけたときには、既に夕刻に近く。
 カカシが気配を絶たずに近づいて行くと、立ち尽くしていたイルカは振り向いたが、無言のまま眼を逸らしてしまう。
 思わず足を止めたカカシが、再び歩を進めれば、同じだけイルカは後じさる。
 縮まらない距離。
 焦れて、カカシは後先も考えぬまま口を開いた。
「イルカ先生、あの……」
「昨夜は申し訳ありませんでした」
 カカシの言いかけた言葉を遮るようにして、イルカが頭を下げる。
「上忍の方に楯突くつもりはありません、が…――ああいうことなら、こうして言ってくだされば」
 こわい貌をして、何を言っているのかと思う。
 ―――こうして、人目のないところで。二人っきりで?
 そんな各上からの誘い、いや、命令ならば脚を開くと言っているらしい中忍は、とても素直にそうするようには見えないのだが。
 それにしても、ずいぶんな見損なわれようではないか。
 身から出た錆だけに怒れもせず、上忍としての自分が、イルカの中では底値を叩いていると思えば情けなかった。
 だが、上忍を十把一からげにした、卑屈なんだか不遜なんだか分からないイルカの言い草が、カカシの癪に障るのも事実で、意地の悪いことのひとつも返したくなる。
「イルカ先生は、それでいいんですか」
 そんなに簡単では困るのだ、カカシが。
 良いも悪いも、とイルカは言葉尻を濁し足元を睨む。少しの間を置いて、ぽつりと地面に落とされた声は硬い。
「差し出がましいようですが」
 イルカの視界を追って視線を下げると、握りこまれた両の拳が目に入った。
 震えるほど握り締められた拳は、痛々しいというより物騒に見えるのに、手を繋いでみたいなどと思うのは重症かもしれない。
「っ……ですが、子供をダシにされるのはどうかと」
 苦痛を堪えるようなイルカの表情を覗き見、カカシは逆に安堵する。イルカの忿りの在り所が、あまりにもイルカらしいと思えたことに。
「ごめんなさい」
 素直に謝罪すると、イルカは弾けたように頭を上げた。
 カカシは一歩踏み出し、身を引こうとするイルカの肘を捕らえる。
「ごめんなさい、謝りたかっただけです」
 早口で言ってしまえば、イルカは動きを止め、訝しげな眼差しをカカシに据えた。
「アナタを困らせる気はなかったんで」
「え……それじゃアレは、どういう」
「言ったことは本気です。少し先走り過ぎましたが」
 嫌悪に歪められる貌に慌てながら、カカシは言い募った。
 今を逃したら次はない。イルカ相手ではあまり当てにならない勘だが、そう追い立てられては信じるしかない。
「イルカ先生が好きなんです」
「――だから、それは構わないと」
 必死で口にする言葉さえ通じない、理解の薄さが恨めしかった。
 自分が無力な馬鹿者に思え、思いのままカカシの声音は低まる。
「好きなので。イルカ先生にそんなこと、オレは無理強いしたくないんですよ」
 大きく見開かれたイルカの眸が、心底、驚いているふうなのは喜ぶべきなのだろうか。
 喜んでおこうと決め、カカシは呆然としているイルカに笑みかけながら、拳をつくったままの両手を取り上げ、そっと握った。
 イルカが振り払おうするのを離さず、ゆっくりと言い聞かせるように言葉を繰り返す。
「オレはたぶん、アナタが好きなので、嫌われたくないんです」
 イルカの喉がこくりと上下して、眼につよい光が戻った。眉間の皺は深々と刻まれたまま、眦には微かな赤みが差してくる。
「って……何ですかそれ。たぶん、て」
「その辺がややこしいトコでして…――オレの話、聞いてくれますか」
 聞いて欲しい。
 何に祈ったこともないけれど、今なら、地べたに蹲って脚に取り縋ってもいい。イルカの。
 イルカは目を細めて、カカシの貌と握られた手とを交互に見、ふ、と諦めたような息をついた。
「聞きましょう」



〈続〉
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