「たとえばそれは道端にひとつ青いビー玉、陽に透かし見るあなたの瞳に小さな海を描いて、宝物に変わる。」
むやみに長い題のシリアス、合同誌再録。
相変わらずカカイルの出会いから律儀に始まっています。
カカシ×イルカ(♂/♂)全6話。
+ + + + + + + + + +
窓の外と区別がつかないほど、白く霞がかかった上忍待機所で、その原因がわざわざ席を立ち、こちらにやって来るのを、カカシは敢えて黙殺した。
だが、露骨な無視など毛ほども気にしない様子の男に、カカシは渋々と愛読書から目を離した。
「カカシ、その面どうにかしろ」
「―――――何よ」
どさりと傍らに腰を降ろした煙突は、日頃まったく煙突らしいことしかする気がないくせに、時折、人並みのことをしたがるので困る。
それがまた、結構な借りになってしまうところが迷惑なのだが、どうやら、今のアスマは人間をやっているらしい。
だから、カカシは席を立たない。
「イルカに鼻毛抜かれて幸せそうな面しやがって」
していない。
「ムチャクチャな絡み方すんな、阿呆」
―――イルカ先生はそんなに甘えてくれなーいよ。
言えるほど恥知らずでもなかった。
イルカに思いを告げてから、三ヵ月ばかり。
あの日。
カカシが長々と事の次第を語り終えた頃には、月が昇っていた。
説明が苦手なカカシの省略と飛躍の多い話に、イルカは辛抱強く最後までつきあい、それから、肺活量を測りたくなるほど長い溜め息の後、何故か情けなさそうな貌で口を開いた。
「それ、好きとは違うんじゃないですか」
「イルカ先生を好きなのは間違いありません」
好きでなければ誰がこんなに執着するものかと、カカシは自慢にもならない理由を胸に力強く断言してみせたが、それをイルカは冷ややかに切って捨てた。
「じゃあ、それはそういうことで。だとしても、いきなり寝ようっていうのは違うでしょう」
「それは……よく判らなかったから、確かめようと」
「自分で判らないようなことに、他人を巻き込まんでください」
きっぱりと決めつけられ、項垂れたカカシの頭上で、イルカの気配が解けてゆくのを感じた。
不安げに揺らぎ、静かに張り詰めてゆく気の流れに、イルカが何か考えこんでいるらしいと察して、カカシはおとなしく待った。
不意に、イルカの声が降って。
「わかりました。―――それで、いいです」
咄嗟に意味が飲み込めず、伺うようにイルカの貌を見上げたカカシの片目は温かな掌で覆われ、暗闇の中で咳払いがひとつ。
「つきあうっていうか、側にいて、一緒に飯食って……それぐらいでいいんですね?」
こんなに優しくて、気持ちのいい声を聞いたのは生まれて初めてだと、カカシは思った。
それから。
あの〈写輪眼〉が夜遊びの一切をやめ、大事な情人の家に通い詰め、今では同棲同然の甘い生活を過ごしている。
と、いう話になっているらしい。
アカデミーの一部で囁かれている噂は、大体において間違ってはいないが、正確でもない。
カカシが頻繁にイルカの部屋を訪れ、泊まり込んでいるのは本当だ。しかし、せいぜい手を握り、口づけを交わす程度の仲で、情人だの同棲だのというのは大袈裟過ぎる。
イルカの側にいて、甘えて、じゃれあって。
ままごとのように可愛らしい関係は、それはそれで楽しいものであったが、カカシは物足りなさを感じ始めていた。
イルカは甘えない。
恋人らしい戯れも、それ以外のことにしても、決して自分からカカシを頼ったり、凭れかかろうとはしない。
生来そういう性分なのだとイルカは言うが、気にしだすと最初が最初だけに、カカシは負い目を感じずにはいられない。
一方的に甘やかされ縋られることのない自分は、イルカにとって、ペットや子供のようなものではないかと思えてくる。少なくとも、恋人とはいえないだろうと。
近頃では、そんなふうにイルカの心を疑う己に吐き気すら覚え、ひどく空虚な気持ちになるのだ。
―――オレを、もっと好きになってくれればいいのにねぇ。
「あぁ? なんだ、ついに振られたか」
迂闊にも声に出していたらしい。
「うるさいよ」
にやにやと嗤う髭面を横目で睨み、カカシはそっぽを向く。
「アレだな、イルカもよ、あんな血色悪ィ面になるまで我慢したんだから、キレイに別れてやれや」
「何それ」
カカシがめいっぱいの不機嫌さをこめた返事を、アスマは気にとめたふうもなく、小馬鹿にしたような一瞥を投げよこす。
「痩せただろ?」
「―――……」
それは、忙しいからと。
しばらく仕事が立て込んでいるから会えない、と言ったイルカは、確かに、少し。
―――任務の日程が詰まって、オレの任務明けも夜勤と重なって、だから。
カカシは頭の中で日数を数えるなり、勢いよく立ち上がった。大股でドアに向かえば、呑気な声だけが追いかけて来る。
「もう帰ったぞ。この雪ん中をひとりでトボトボと」
「っ!……殺すぞ、この野郎」
身を翻して窓枠に足をかけ、そのまま飛び出したカカシの背後で。
奢れよ、と、煙突が張り上げた声は降る雪に吸いこまれ、届いたかどうか。
〈続〉
だが、露骨な無視など毛ほども気にしない様子の男に、カカシは渋々と愛読書から目を離した。
「カカシ、その面どうにかしろ」
「―――――何よ」
どさりと傍らに腰を降ろした煙突は、日頃まったく煙突らしいことしかする気がないくせに、時折、人並みのことをしたがるので困る。
それがまた、結構な借りになってしまうところが迷惑なのだが、どうやら、今のアスマは人間をやっているらしい。
だから、カカシは席を立たない。
「イルカに鼻毛抜かれて幸せそうな面しやがって」
していない。
「ムチャクチャな絡み方すんな、阿呆」
―――イルカ先生はそんなに甘えてくれなーいよ。
言えるほど恥知らずでもなかった。
イルカに思いを告げてから、三ヵ月ばかり。
あの日。
カカシが長々と事の次第を語り終えた頃には、月が昇っていた。
説明が苦手なカカシの省略と飛躍の多い話に、イルカは辛抱強く最後までつきあい、それから、肺活量を測りたくなるほど長い溜め息の後、何故か情けなさそうな貌で口を開いた。
「それ、好きとは違うんじゃないですか」
「イルカ先生を好きなのは間違いありません」
好きでなければ誰がこんなに執着するものかと、カカシは自慢にもならない理由を胸に力強く断言してみせたが、それをイルカは冷ややかに切って捨てた。
「じゃあ、それはそういうことで。だとしても、いきなり寝ようっていうのは違うでしょう」
「それは……よく判らなかったから、確かめようと」
「自分で判らないようなことに、他人を巻き込まんでください」
きっぱりと決めつけられ、項垂れたカカシの頭上で、イルカの気配が解けてゆくのを感じた。
不安げに揺らぎ、静かに張り詰めてゆく気の流れに、イルカが何か考えこんでいるらしいと察して、カカシはおとなしく待った。
不意に、イルカの声が降って。
「わかりました。―――それで、いいです」
咄嗟に意味が飲み込めず、伺うようにイルカの貌を見上げたカカシの片目は温かな掌で覆われ、暗闇の中で咳払いがひとつ。
「つきあうっていうか、側にいて、一緒に飯食って……それぐらいでいいんですね?」
こんなに優しくて、気持ちのいい声を聞いたのは生まれて初めてだと、カカシは思った。
それから。
あの〈写輪眼〉が夜遊びの一切をやめ、大事な情人の家に通い詰め、今では同棲同然の甘い生活を過ごしている。
と、いう話になっているらしい。
アカデミーの一部で囁かれている噂は、大体において間違ってはいないが、正確でもない。
カカシが頻繁にイルカの部屋を訪れ、泊まり込んでいるのは本当だ。しかし、せいぜい手を握り、口づけを交わす程度の仲で、情人だの同棲だのというのは大袈裟過ぎる。
イルカの側にいて、甘えて、じゃれあって。
ままごとのように可愛らしい関係は、それはそれで楽しいものであったが、カカシは物足りなさを感じ始めていた。
イルカは甘えない。
恋人らしい戯れも、それ以外のことにしても、決して自分からカカシを頼ったり、凭れかかろうとはしない。
生来そういう性分なのだとイルカは言うが、気にしだすと最初が最初だけに、カカシは負い目を感じずにはいられない。
一方的に甘やかされ縋られることのない自分は、イルカにとって、ペットや子供のようなものではないかと思えてくる。少なくとも、恋人とはいえないだろうと。
近頃では、そんなふうにイルカの心を疑う己に吐き気すら覚え、ひどく空虚な気持ちになるのだ。
―――オレを、もっと好きになってくれればいいのにねぇ。
「あぁ? なんだ、ついに振られたか」
迂闊にも声に出していたらしい。
「うるさいよ」
にやにやと嗤う髭面を横目で睨み、カカシはそっぽを向く。
「アレだな、イルカもよ、あんな血色悪ィ面になるまで我慢したんだから、キレイに別れてやれや」
「何それ」
カカシがめいっぱいの不機嫌さをこめた返事を、アスマは気にとめたふうもなく、小馬鹿にしたような一瞥を投げよこす。
「痩せただろ?」
「―――……」
それは、忙しいからと。
しばらく仕事が立て込んでいるから会えない、と言ったイルカは、確かに、少し。
―――任務の日程が詰まって、オレの任務明けも夜勤と重なって、だから。
カカシは頭の中で日数を数えるなり、勢いよく立ち上がった。大股でドアに向かえば、呑気な声だけが追いかけて来る。
「もう帰ったぞ。この雪ん中をひとりでトボトボと」
「っ!……殺すぞ、この野郎」
身を翻して窓枠に足をかけ、そのまま飛び出したカカシの背後で。
奢れよ、と、煙突が張り上げた声は降る雪に吸いこまれ、届いたかどうか。
〈続〉
PR
この記事にコメントする
Counter
Search this site
mero
Ninja point
Ninja