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二次創作小説・主にカカイル
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すれ違い勘違いシリアス、カカシ視点。
今回は現在編です。
カカシ×イルカ(♂/♂)全6話


+ + + + + + + + + +
 黄金と桃色と青毛。風変わりな毛色の仔犬どもが、忍らしい顔を見せ始めたのは最近のこと。
 目を覆いたくなるほど勇敢で前向きな部下達の救いは、素直さと物覚えが良かったことだ。
 性格は三者三様に妙な捩れ方をしていたが、目前にした事象への反応は揃って素直だった。
 意外なことに。
 カカシを見上げる六つの瞳の中には、普通に愚かな偏見しかなく、圧倒的な力に怯える真っ当な感覚も残っており、それは彼らが生きのびるのに役立った。
 アカデミーの劣等生と秀才と、天才の片鱗を窺わせる子供。
 極端な個性を持つ彼らの、忍としての能力も極端な片寄りを見せていたが、ただ、のみこみの良さと土壇場に据える肝があるのは共通している。
 巧く仕込んだものだと思った。
 所詮は忍として未完成な器でしかないにせよ、下忍を任じられたからには与えられた任務を全うし、自力で生き抜くしかない。その為に必要な最低限のことは、最初から部下達の身についていた。
 忍術アカデミーの存在意義を考えれば、当然のことだ。
 だが、当然のことが成されないのも世の常であり、そういう意味では、カカシはいつも悲観的なスタンスで物事を量ることにしている。
 故に、おぼつかない足取りで後を追ってくる部下達は、カカシにとって至極道理にかなった、驚くべき存在だった。

 ―――子供は、仔犬ほど好きじゃない。

 好きではなかった。
 しかし、カカシの元にやってきた三人の子供は、歳相応に無知で手のかかる生き物だったが、かろうじて木ノ葉の忍らしい覚悟と、仔犬よりはもののわかる素振りを見せたので。
 自分の部下と決めた。
 輪にした両腕の中に収まったものは、少しばかりカカシの身を重くし、埃の積もった柩に横たわる記憶を甦らせたけれども、それは不思議と煩わしいものではなかった。
 むしろ、その重荷を育んだ者を知りたいとさえ思ったのだ。



 イルカ先生。
 甲高い声が呼ぶ。小さな躰が飛びつく。一歩引いた場所で眺める少年のポーズ。
 仔犬の分別に戻って喧しく群がる部下達を、諌める声音は朗らかで通りがいい。
 任務報告書受付に座っているとはいえ、きっちりと撫でつけた黒髪を高く結わえ、物堅く身繕われた姿はありふれた中忍とも見えず、いかにもアカデミーの教師然としている。
 はしゃぐ子供達に歩み寄るカカシへ、イルカは笑顔を引き締め頭を下げてきた。
「うみのイルカです。よろしくお願いします」
 鼻筋を断つ傷痕と頭の尻尾を除けば、平凡で実直そうな印象しか残らない、つまり、それなりに使える中忍と値を踏んで、カカシは愛想よく応えた。
「えー、はたけカカシです。よろしく、イルカ先生」

 ―――こんなもんか。

 初めて挨拶を交わしたとき、カカシの〈イルカ先生〉に対する感想はそれだけだった。
 期待していたようなものは何もない。否、何も期待してなどいなかったはずだ。
 出会いは単なる偶然に過ぎない。
 それとも、〈写輪眼のカカシ〉が導かれた必然のように、彼と子供達の出会いもまた、入念な作為の上にあるものか。
 だとしたら、誰の。何の為に。

 火影の意向に応じた形になったが、カカシが新卒のスリーマンセルを引き受けたのは、毛色の変わった彼らが気に入ったからで、だから、三代目に注意を促されるまでもなく、彼らに、特に人柱力の少年に、深く慕われる人物が気にかかっていた。
 四代目の生命を引き替えにした術をもってしても、完全に九尾を封じ得なかったと認めたくなくて、子供相手に無駄な挑発をした試験中、結局、異常を感知することはなかったが、宿主の情動によって封印が弛むという情報は見逃せまい。
 ナルトがイルカに心酔しているのは、見ればわかる。わかりやすい子だ。理不尽な孤独から抜け出そうと必死な子供、敵でなければ嫌いじゃない。
 敵対したくはないが、尾獣が復活すれば里は滅びる。その力と怨恨は、木ノ葉だけにとどまらず火の国全域を焦土に変えるだろう。
 そんな危険の種を植えたのは里で、芽を育んだ男は冴えない中忍の体で任務受付などをしている。馬鹿らしい話だ。
 とてつもなく馬鹿げて、恐ろしい話。
 この成りゆきに、何を期待できようか。
 イルカの立場に同情し共感する人々に倍する者達が、陰で彼を憎み囁きあう。
 帳尻は合うまい。里中の恨みと偏見の引き換えに得たのは、ひとりの少年からの信頼だけだ。
 だが、信頼などという一言に収まる繋がりではなかったら。
 何者の理解も得られず、その理由も知らされずに育った子供へ差し伸べられた掌の温もりは、どれほど強く心を縛ることだろう。
 ひとつきりの拠り所。
 目前でかしこまる男は、たかが中忍の分際で何を思い、何を望んで、自らが災厄の口火になりかねない場所に身を置いた。

 ―――ここで今、あなたを殺したら。
 くだらないことを。

 カカシはイルカに笑みかけ、ちょうどよく両脇にあった頭に手を乗せた。
 ぐしゃぐしゃと髪を掻き回してやれば嫌がって、少年達は素早く逃げてゆき、少女は触らせまいと頭を抱えて飛びのく。
「お前ら、仕事の邪魔になるでしょ。今日はこれで解散ね」
 ひとしきり騒いで満足げに引き上げる子供たちを見送り、カカシは受付を振り返った。
「お騒がせしてすみませんね」
 いいえ、と恐縮するイルカへ、さも困ったふうに頭を掻いてみせる。
「みんな元気が良すぎて、ね。下忍の担当は初めてなもんで、毎日驚かされてますよ」
 たいがいは涼しい木陰に座し、落ち着きのない三つの気配を窺っているだけのカカシであったが、部下の微妙な分別に導かれた行動に驚かされているのは本当だ。
「手ごわいですからね、三人とも」
 しみじみと云いながら、イルカは嬉しそうに目を細める。
 いかにも子供好きしそうな温かみのある笑顔、あまりの無邪気さに毒気を抜かれた。

 どんなひとなの。
 カカシの問いに、しばし首を捻った部下達が、小雀のように一斉に口を開いた様子を思い出す。
 ―――いつも元気、心配性、優しい。
 だけど、それは間違っているかもしれない。
 明るいところでは見えないものもあるだろう。
 忍らしく暗がりに立った彼はきっと、もっと別の。

「まったくね、先が思いやられるっていうか。ところでイルカ先生、よかったらアイツらの話、聞かせてもらえませんか」
 軽く見開かれたイルカの眼を、じっと見つめて伺う素振り。
 少々、強引なやり方と思わないでもない。
 上忍にお願いされてはイルカも困るだろうが、気掛かりは早目に解消するべきと、カカシは判断した。
「どっかで呑みながらでも、どうです」
「ええ……はい。私でお役に立てるなら、いつでも」
 予想に反し、朗らかに頷かれた。
「じゃ、明日の晩でいいですか。約束ね」
「約束、ですか」
 カカシの子供じみた言い草を、微笑ましげに繰り返す。そんな人の善い表情の下に、何か。
 いったい何を探しているのかと、カカシは自分の定まらない思いに惑い、内心で舌打ちをする。
 和やかな雰囲気を装って、約束した。



 さして安っぽくも高級でもない居酒屋の小上がりで、二人きり向かい合っても、イルカに気後れしたふうはない。
 人懐っこい気性なのだろうか。
 杯を合わせ、カカシが部下の話を振ってやると、最初は生真面目にアカデミーでの能力評価を並べていたが、いつの間にか楽しそうに、三人の思い出を長々と語っていた。
 ゆっくりと杯を重ねるたび、イルカはよく笑うようになり口数も増えてゆく。とはいえ、礼を欠くほど崩れもせず、陽気で始末のいい酒だ。
 ―――案外、強かったか。
 あわよくばイルカを酔い潰してしまおうという目論みは、流石に安直すぎたかもしれない。
 むやみに急いて、周囲に波風を立てるのも厄介だ。イルカの人となりを把握するまで、それなりの時間はかけてもいい。
 暢気で気さくな上忍らしい相槌をうちながら、カカシはイルカの杯に酒を注いでやった。


 カカシが会計を済ませて店を出ると、イルカは少し申し訳なさそうな顔つきで後について来た。
「なんだか呑んでばかりで、カカシ先生のお役に立てたかどうか……」
 まずは、はたけ上忍がカカシ先生になったのは上々、カカシに不満などなかった。
「や、いろいろ参考になりました。それに、オレは楽しかったですよ」
 わかりやすく嬉しそうな貌をする。
 そうですか、と、人差し指で鼻の傷を掻くのは照れているのだろうか。
 悪くない。
 酒気に朱を刷いたイルカの目元にふと気をとられ、じっと見つめながら云った。
「イルカ先生さえよければ、また一緒に」
「ええ、喜んで」
「ホントに? それじゃ次はイルカ先生の好きな店に連れてってください」
 まるで口説いているようだと思う。
「はい、きっと」
 にっこりと笑む表情に愛嬌はあるが、でも、相手は女じゃないからと思い直して、さりげなくイルカの背に伸ばしかけた手をとめた。



〈続〉


(2004/03/07〜2005/7/17・2005/8/3改稿)

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