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二次創作小説・主にカカイル
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すれ違い勘違いシリアス、カカシ視点。
暗部カカシ過去編です。
カカシ×イルカ(♂/♂)全6話


+ + + + + + + + + +
* * *



 下船するなり鳥を見かけて、カカシは眉をひそめた。
 海鳥にまぎれて繰り返し高く鳴きながら、夕空に大きな弧を描いて旋回する不審な鳥は、木ノ葉の伝令だ。
 仲間を探している。救えと呼びかける。
 火の国の内とはいえ、張り出した半島であるここから里まで駆け通しで一昼夜を越える距離を考えると、救出部隊の先駆けとして飛ばされたのだろう。
 ―――さて、どうするか。
 カカシは玄人女のつくりで、婀娜っぽく小首を傾げた。
 暗部の任務帰り、完了報告を急ぐ類いの任務ではない。
 常ならば、この賑やかな港の歓楽街に宿を求め、翌日ゆっくりと里に向かうところだ。そのぐらいの目こぼしがなければ、単独行のSランク任務などやってられない。
 だが、異国でうまく追っ手をまいた後、のんびりとした船旅の間にカカシの体力は充分に回復していた。
 どうしてくれよう。
 そう遠くない場所で木ノ葉の忍が、もしくは忍であったモノが四つ倒れているはずだ。
「ついてないなァ、もー」
 ぼやきながらも、カカシの足は町外れに向かっていた。
 絡んでくる酔っ払いをいなし、物陰で会心の変化を解く。
 目深に被ったフードの下に、狗の面を着けた。
 任務中は額当てを外しやすいよう腰に括りつけてあったが、自里の忍と出くわす可能性があるなら、着けていたほうが何かと面倒がない。
 ―――せっかく行くんだから、ひとりぐらい生きててよね。



 カカシの願いが天に聞き届けられたのか、確かにひとりは生きていた。
 街道から離れた森の奥。
 大きな木の根を枕にし、周囲の赤土をどす黒く染めた褥に横たわり、辛うじて呼吸をしているぐらいには生きていた。
 巻物ポーチごと切り裂かれたベストで中忍とわかるが、まだ年若い男。二十歳を越えてはいないだろう。
 十文字に斬られた胸と口元はべっとりと、沈みかけた夕陽よりもなお赫い色に濡れていた。
 ―――血を吐いたのか。
 四肢のそこかしこが裂け傷ついているが、それよりも失血と内蔵のダメージが深刻だと一目でわかる。
 カカシが足音を隠さずに近づくと、瀕死の躰がびくりと揺れた。
 ―――あーあ。やっぱ、そうしちゃうのね。
 中忍の右手は健気にもクナイを握り締めている。
 猛毒で鈍色に変色した刃を、誰に向ける気だったのかは、あまり考えたくないところだ。
「敵じゃないよ。オレは木ノ葉の暗部」
 所属を明かし、カカシはゆっくりと男の傍らに跪いて、青ざめた貌を覗き込んだ。
 焦点が合わないのか眉間に皺を寄せ、眩しげにカカシを見上げる表情に、微かな安堵の色が見えた。
 その気持ちはカカシにもよくわかる。
 たとえ人生の最期に見るのが禍々しい面になろうとも、生死の際で寄り添われるなら、同里の忍がいい。
 否応なく他人に生命を預けるにしろ、それが仲間であれば諦めもつくというものだ。


 カカシは素早く式を飛ばすと、男に応急手当を施した。
 手当といっても手持ちの医療パックでは、大雑把に傷を縫って包帯を巻き、男の口に気付けの丸薬を放り込んでやるのが精一杯だ。
 残念ながら、写輪眼でコピーした技の中に医療忍術はない。 印や術式よりも、微細なチャクラの加減と経験に重きをおかれる医療忍術は、カカシでも持て余す代物だった。
 医療系では唯一身についた肉体活性も、後の治療のあてもなく重症者に用いては、かえって寿命を縮めるだけだ。
 ―――結局、小器用なだけなんだよね、オレ。
 カカシは暗澹として、息も絶え絶えの男を見下ろす。
 救援が間に合うかどうか、きわどいところだ。
 同じ額当てをしているだけの関係であっても、仲間を見送るのは哀しい。いつも。
 状況が許す限り、自らの血で仲間の手を汚させるのを良しとせず、己のための自害を選ばない木ノ葉の忍の多くは、断末魔の苦しみに甘んじて逝く。
 おそらくこの中忍も、自身の生命活動に反応する札を、どこかに仕込んでいることだろう。
 長々と苦痛を噛み締めながら、彼は待っている。
 せめて、何か。


「わかってるだろうけど、アンタこのままじゃ朝までもたないよ」
 さんざん考え迷い、情を隠して切り出したカカシの言葉に、中忍は小さく頷く。
「その躰をオレにくれるなら、里に帰してやれる」
 試したつもりはなかった。
 ほんの、捻くれた自虐心だ。
 カカシにも男を救える方法が、ひとつだけあった。
 その、どうやっても道理の通らない手段を、脳裏にはっきりと思い描いてしまったからには、黙っていられない。
 云うだけは云って選ばせる。
 自己満足と責められてもいいと思った。
 友の、師の、仲間達の末期に至る覚悟を、数え切れないほど目の当たりにしてきたのだ。もう誰も見殺しにしたくない。
「貰ってもいい?」
 カカシを訝しげに見、彼は微かに笑ったようだった。
「ぁ、生憎、俺のじゃ……」
 満足に口もきけない肉体すら、里のものだと云う。
 往生際の悪い輝きを瞳に宿す彼が掲げてみせたものは、同里の忍を前にしての意地か甘えか判じかねたが、そんなことはどちらでも構わない。
 ただ、この期に及んで、可愛らしいほど無意味なそれを口にする男を、失いたくないと感じたので。
「じゃあ、任務以外の時間をみんな貰おうか。また任務につけるかどうかわからないけど、必ず連れ帰る」
 カカシが唆すのは、そんな取引だ。
 それでも生きたいというのなら。

 赤錆色の汚れをこびりつかせた唇が、もの云いたげに動く。
「……い……」
 それでいい、と、音はなくともカカシには聞こえた。
 彼は残る可能性を、見ず知らずの悪辣な暗部に賭けた。
 ならば自分も、ぎりぎりの綱渡りに挑もう。
「眠らないで。これからオレはアンタと契約する。アンタをこの世の外に放り込んだ状態で封印して、里で喚び出す」
「な、っ……」
 驚愕と不満と惧れと。そんな感情がないまぜになった面持ちで男が凝視するのへ、カカシは駄目を押す。
「目が覚めた? 第一級の禁術だからね、うまく戻れたとしても被術者の五割は発狂するか、死ぬ」
 男の顰められた貌に力が戻ったのを認め、カカシは笑んだ。
 大丈夫、命根性が汚いのはお互いさま。

 今、意識を失われては困るのだ。
 術式を印した巻物の用意もないまま、カカシが行おうとしている術を成立させるには、忍犬を召喚する場合と同じく、対象との力の均衡と合意に基づいた、血の契約が要る。
 当然、カカシの力量を上回る存在とは契約不能だが、この中忍程度なら約せるという感触はあった。
 そもそも、人間を巻物に印された術式に召喚する口寄せと、契約で獣を呼び寄せる口寄せは、同じ時空間忍術でも仕様が根本的に異なる。
 後者で術式に当たるものは召喚対象と術者の体内に宿り、その安定性から、口寄せが不発に終わることはあっても、一度発動した術が崩壊することは稀だ。
 万が一にも、崩壊すれば。
 発動に費やしたチャクラと術式の持つ力が、すべて跳ね返ってくるのは呪法と同じ。カカシが術法を誤っても、イルカが自制を失い乱した気が術式を歪めても、互いに強力な反動を受ける。
 最大の問題は、かつてカカシが師に釘を刺された事実。
 ―――時空間忍術での瞬時の移動は絶対条件、人間の精神は異空間の狭間に長く耐えられない。
 そこに何があるのか、カカシも知らない。
 過去にこの術を受けて異界に留まり、この世に召喚された者達は皆、必ず何かを欠いていた。
 生命、正気、記憶。
 そんなものを失わせないように、五体五感を封印する。
 契約の後、送還と封印の術を一分の狂いなく、タイミングを合わせ発動させる。
 複雑で膨大な手数の印と、正確なチャクラの配分。
 師匠の術を応用した術式は、眼が覚えている。

 ―――必要なのは、速さと気合だけ。
 こんなときは思考をシンプルにしたほうがいい。そう自分に云い聞かせておく。
 カカシは巻物を広げ、男の右手を握って導いた。
 震えながら白紙を滑る指先は、充分な血に濡れている。

 うみのイルカ。

 その名の横に、カカシは指を噛み裂いた血で名を記し、五指を捺す。
「じゃ、これで…―――覚悟を決めなさいよ。次に会ったとき生きてたら、アンタはオレのもんだから」
 カカシは最初の印を組むと、夜空を映す双眸を見下ろした。
 まだ明るさの残る夜天の裾に、星がふたつ。



* * *



〈続〉


(2004/03/07〜22005/8/3)
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