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二次創作小説・主にカカイル
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カカシ×イルカ(♂/♂)
自分にしては珍しく、友達に贈呈したもの。


+ + + + + + + + + +
I'm Nobody
誰にもなれない君がいなけりゃ


NOBODY〈無貌〉


誰もいない森の中で木が倒れる。
その時、倒れる音はしたと言えるのだろうか。
一匹の猫が箱の中。
不可視の空間に、致死量の毒が流される。
猫はいったい何時、死んだのか。

それは問いではなく、もののたとえであったのだが、イルカの意図を察している筈の上忍は言った。

―――可哀想な猫。

呟いた声は道化たように軽かったので、同感の意を表しイルカも嗤った。
その木はあなた、その猫は俺。
自分達はそういうものに似ている。
既に悲観や自嘲も介在せぬ実感として。
酔いに見失った話題の接ぎ穂、他愛ない戯れ言に付き合いよく、カカシは銚子を傾けながら言葉を継ぐ。
「酔ったかな。俺、ナルトみたいなこと言ってる」
「言ってましたよ、同じことを」
イルカが笑いを含んで告げると、眠たげな隻眼が大袈裟に見開かれた。
「ホントに?」
「そんなの猫がかわいそーだってばよ」
少年の口調を真似て言えば、カカシはうなじを掻きながら照れたように唇を尖らせる。時折、そんな子供めいた表情を浮かべる面は、掛け値なしに端正なつくりで、いかにも女好きするふうだった。
里に並ぶ者のない秀れた上忍は、見目よく気が利き、話上手の聞き上手。酒席では綺麗な女性を侍らせていそうな男。
―――何で俺がここに居るかな。
アルコールの過剰摂取で、とりとめがなくなった思考の中からイルカが掘り当てた疑問は、近頃ふと脳裏を掠める思いに繋がった。
自他共に認める向こうっ気の強さを除けば、際立ったところのない中忍であるイルカの、いったい何が気に入ったのか、カカシは顔を合わせるたび笑みかけてくる。
親しげに交わされる会話、食事に呑みにと頻繁な誘い。
カカシの主導によるそれらは、イルカを煩わせる付き合いではなく、むしろ楽しい時間であったが、互いの階級差を思えば自然とは言い難い。
今夜にしても、給料日前向きの煤けた居酒屋で、上忍と中忍が二人きり、額を突き合わせるようにして杯を重ねている。
しかも、このエリート上忍は任務受付所の片隅で、イルカの終業時間を待っていたのだ。
―――これじゃ、まるで。
不穏な思いつきごと呑み込むように酒を呷って、イルカは、うっかり掘り進んでしまった疑念を素早く、丁寧に埋め戻した。 同じ生徒を受け持った者同士、独り身の気安さで夜毎に杯を交わすのは構わない。階級を越えた友情もあるだろう。
そういう関係がいい。
今のままで。
「カカシ先生、そろそろ」
言って促せば、カカシは頷き、ゆっくりと席を立った。
引き上げられた口布に、柔らかな微笑が隠れるのを名残惜しく感じ、そうして自覚した欺瞞を、イルカは苦く噛み締める。
目を背けるのは、そこに在るから。
確かに存在する感情を知っているからだ。



吐息を白く凍らせる夜気も、火照った躰には心地よく、オレンジ色の街灯が照らす小路を行く。
合わせた歩調が常より遅いのは、酔いか迷いか。
ふと歩みの遅れたカカシを振り返れば、丈高い影が街灯を背に佇んでいた。
ひりり、とうなじを灼く予感に、イルカは目を細める。
酔眼に逆光が眩しく、カカシの表情が見えない。
「あのね、イルカ先生」
耳触りの好い呼びかけと同時に、カカシが歩み寄る。一歩。二歩。腕を伸ばせば届く距離を残して。
間近にあっても、額当てと口布が表情を覆い隠し、常から気配の薄いカカシはまったく忍らしく、貌無き影のようだ。
「イルカ先生は、あの猫の有り様を良しとする立場にいるとして、あなたはどうなんです」
あの猫。
実在するもののように語る声音は、影の姿を裏切って、剥き出しの感情を覗かせている。
イルカは小さく息を吐いた。溜め息のように。
そんなのは駄目だ。
「カカシ、先生?」
「ええ、俺もあいつらにはそう言うでしょうね。でも…――寂しかないですか」
そんなふうに向けられる思いは、深い酔いに似て、足元を危うくする。
危険な一歩を踏み出しながら、イルカはぎりぎりの自制を盾として、細められた片眼の真意を探るようにカカシの貌を覗き込んだ。
酔いの醒めた頭の片隅で、己の挑発的な態度に驚きながら、それでもカカシの眦に刷かれた朱を見逃さず。
「俺も大人なので」
「イルカ先生?」
その声に、さりげない素振りに秘められた、思いの深さを知ってしまった。
流されるには深くて、重過ぎる。
「寂しくならない方法を選びます。俺は、そういう猫を飼いやしません」
―――狡い大人の方法で。
自嘲に口の端を歪めたイルカを見下ろして、不意に熱を失った群青の、綺麗な眸が三日月の形に隠れる。
「……酔った振り?」
小首を傾げて、カカシは面白そうに笑っている。
―――ああ、そうか。
「まさか。カカシ先生こそ」
狡いのはお互いさまで。
投げ捨てるには心地よすぎる日々。
相手を受け止める余裕も覚悟も、まだ足りない。
「俺は酔ってますよ、イルカ先生に」
「うへぇ」
「……あんたね」
不器用に、明け透けに隠された本音には目を瞑って。

―――これは恋、かな。

違うような気がすると、イルカは思う。
未だ遠いそれから逃げるように、追うように。
イルカは傍らで微笑む男に、笑みを返した。

先のことは分からないが、そのうち自分の腕の中には、一匹の猫が棲みつくのだと、そういう予感はしている。



〈終〉



2002/01/10〜2002/01/12
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