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二次創作小説・主にカカイル
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カカシ×イルカ(♂/♂)
初心っぽい告白篇、初期作品。


+ + + + + + + + + +
夕日の色に染まった事務室で、小一時間ばかりの残業を終える。
アカデミー前の通りをゆっくり歩いて、馴染みの暖簾をくぐりラーメンと特製餃子を注文し、財布に余裕があればついでにビールを一本つける。
〈一楽〉を出る頃にはすっかり日が落ちて、イルカが自室に帰り着き、茶でも淹れようと薬缶を火にかけた頃合いを見計らったように、東側の窓ガラスが叩かれる。
窓は音もなく開き、見慣れた黒い影がするりと室内に滑り込んだ。
「お邪魔します」
いささか強引かつ無作法に訪れた客は、必ず目を糸のように細め、愛想良く挨拶する。
最初はひどく驚いたものだが、それがあんまり度重なるので、イルカは窓に鍵をかけるのを止めた。窓に鍵をかけ罠を仕掛けたところで、上忍相手に何の気休めになるだろう。
「……カカシ先生、たまには玄関から入って来ませんか?」
「いやー、何だかここが気に入っちゃって」
軽くたしなめたつもりのイルカに、返ってきたのは呑気な笑い声だった。
溜め息とともに頭を振る。
〈写輪眼のカカシ〉ともあろう者が、近隣の住人の目にとまるような不手際をさらす筈もないと知りつつ、万が一を思うと気が重い。カカシの外聞などイルカの知ったことではなかったが、己の世間体は気になった。
三日とあけず、夜毎に窓から中忍の部屋へと忍び込む上忍。
茶飲み話をしているだけにせよ、近所の噂になった時、どう言い訳しても真実味を欠く程度には、奇矯な振る舞いだろう。
とはいえ、今は取り敢えず、迷惑を被っている訳ではなかった。それどころか、最近では独り身の寂しさというやつで、カカシがやって来ない夜の時間を持て余すことすらある。
飄々として情の薄いように思えた第一印象に反して、カカシには気さくで人懐っこいところがあった。
「今日はどうでした?」
板張りの床に腰を下ろしたカカシを振り返り、訊いてみる。
いつも同じ、どうとでも取れる曖昧な質問だ。
「うーん、特に面白いことはなかったかな」
カカシはそんな風に答えることもあれば、些細な出来事を話すこともあった。ただ、彼の仕事の様子を語ることは滅多になく、イルカもまた問わなかった。
実際のところ、アカデミーを巣立ったばかりの生徒達が気掛かりでならなかったのだが、それを生徒達の上官であるカカシに知られたくない。
カカシへの気兼ねというより、以前に過保護と指摘されたことが自戒となっているのだ。
つまらないこだわりかも知れない。
しかし、イルカにも同じことを咎められたくないと思うだけの意地と、カカシへの好意はあった。
知り合った当時はどうあれ、今ではカカシを得難い友のようにも感じている。
「そうだ、お土産があるんですよ」
慣れとは恐ろしいもので、眦を下げて紙包みを出したカカシに、
「珍しいですね」
身も蓋もない返事をしてしまった。
淡い月の色をした頭が項垂れ、恨みがましい声が呟く。
「……痛いとこ突きますね………」
「いや、そういう意味じゃないです! すみません、そうじゃなくてっ」
慌てて取り繕おうとした途端、カカシが吹き出した。
「冗談ですよ。イルカ先生は甘い物いけるほうですか?」
「え? わりと好きですけど」
余程イルカの慌てぶりが面白かったのか、カカシは喉の奥で笑いながら、件の紙包みに掛けられた紐を解く。
器用そうな指先が包装紙を開いてゆくのを眺めていたイルカの鼻先に、ふわりと甘く爽やかな香りがとどいた。
「桜餅ですね。俺の好物なんですよ」
「そりゃ良かった」
にっこりと微笑んで見上げてくるカカシの面に、イルカは思わず息を飲んだ。
「お茶、淹れますね」
一瞬の動揺を悟られまいと、背を向け台所に立つ。
忍らしく無表情なカカシの整ったつくりの貌が、時折、別人のように幼く見えることがある。有り得ないことではあるが、目前の男がまったく無防備で、どこか儚いように感じられる。
そんな表情に気づくたび、見てはいけないものを垣間見た気がして、イルカの鼓動は跳ね上がった。
常には硬質の輝きを放っている、カカシの灰色がかった瞳が、何かに縋るようにイルカの姿を写す。
そんな筈はない。
ある筈がない







「熱いから気をつけて下さい」
言わずもがなのことを口にしながら差し出した湯飲みを、カカシは押し戴くように両手で受け取った。
わずかに触れた指先から、後ろめたい迷いが伝わってしまうような気がして、イルカは素早く手を引いた。
「やっぱり、餡にはお茶ですよね」
カカシの明るく呑気な声音に安堵し、淡い桜色の菓子をつまむ。
ふわりと口中に広がる春の香と甘味は、どこかいたいけで懐かしい。
「昔、これを食べたいばっかりに、桜の葉を漬けるのを手伝ったりしました」
「イルカ先生が?」
意外そうに片眉を上げたカカシへ苦笑を返し、遠い記憶を辿る。
「ええ、キレイな葉を選って、傷をつけないようにそっと洗って……母がそういうのが好きな質でしてね。桜餅をつくる母を、見てるのが好きでした」
ふと訪れた沈黙に視線を上げると、じっとこちらを見つめていたらしい真面目な眼差しとぶつかった。
「すみません、湿っぽいですよね、昔話なんて」
気恥ずかしさを笑いに紛らわせ、殊更、大きな音を立てて茶を啜った。
「いいえ、可愛かっただろうなと思って」
「は?」
「子供のイルカ先生が」
何を言い出すのか。
思わず茶に噎せて咳き込んだ背を、カカシの掌がさする。
「大丈夫ですか? 何も、そんなに驚くことはないでしょ」
さも呆れた風に呟きながら。
「…っ……驚きます! そんなこと言われたことないです、俺は」
やっと落ち着いた胸を押さえ、肩越しに睨む。カカシは肩を竦めて、あらぬ方に視線を流していた。
「ま、蓼喰う虫も好き好きって言うじゃないですか」
「虫ですか、あんた」
あからさまに揶揄われているのが癪で、つい憎まれを叩いた。
「悪い虫ですよ、俺は」
悪戯っぽく笑う声音が憎らしい。
反射的に伸ばした右手で胸倉を掴むと、カカシは容易く引き寄せられた。
「カカシ先生」
「先生は要らないです」
鼻先が触れそうなほど間近に貌を近づけて、カカシの隻眼を覗き込む。
「……カカシさん、俺のことが好きでしょう」
挑戦的に言い放ったイルカの言葉に、淡い色の瞳がわずかに見開かれ、それはすぐに笑いの形に細められた。
「当たり前でしょ」
「冗談じゃなくて、俺が好きなんじゃないですか?」
むきになって馬鹿なことを言っていると自覚しながらも、食い下がってしまったのは、堪えられなかったからだ。
穏やかな日々にひそむ、朧な歪み。
他愛ない戯れ言のやりとりは、いつしか駆け引きめいた緊張感を孕んで、胸の奥に不安を刻んでゆく。
いっそ。
望まぬ答えを得たところで、イルカにはどうする術もなかったが、思いを偽りはぐらかすような触れ合いには、もう耐えられないと思う。
「困ったな」
本当にそんな貌をして、カカシはそっと、胸元を握り締める無骨な拳を解かせた。
ひやりとした指先が、イルカの緊張に強ばった掌を撫でる。
「好きです」
低く掠れた声が、だが、はっきりと告げた。
「………イルカ先生?」
脱力のあまり俯き、べったりと座り込んだイルカを気遣うように、カカシの腕が肩に回される。
「嫌なら、嫌だって言って下さい」
イルカは情けない表情を浮かべているだろう己の貌を、隠すように片手で覆い、深い溜め息をついた。
先行きに対する一抹の不安を抱きながら、どこかで安堵している自分がおかしかった。笑いたいような泣きたいような、不思議な気持ちになっている。
「言ってくれないと、俺、ケダモノになっちゃうかも知れませんよ?」
そんな軽口とは裏腹に、小首を傾げてイルカを覗き込むカカシの、綺麗な眼はきっと子供のように頼りなく見えるだろう。
そして、自分がそういう眼差しを絶対に拒めないということを、イルカはよく知っていた。
「駄目です」
優しく顎を掴んで引き上げる、カカシの手を押し止どめた。
「俺が好きなら、ちゃんと人間でいて下さい」
イルカが頬に血を昇らせてやっと言った言葉に、目前に迫った唇が笑みをつくり、音のない言葉を紡いだ。
少しだけ、と。
しなやかな腕に強く抱き締められて、息苦しさと早鐘を打つ胸の鼓動を感じながら、イルカは再び赤面した。
少しだけケダモノなカカシも、嫌いではなかったのだ。


《終》



【初出:2001/3/5〜2001/3/12:同人誌「愛していると言ってくれ」】
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